つい最近、会社の同僚のお父さんが亡くなりました。
で、そのとき気がついたんですが、みなさん相続の基本的な部分に誤解が多々あるようです。
まず「財産だけでなく負債も相続・・・親の借金は子が返さなくてはならないのか?」という問題。
先のお父さん、財産はたいしてなかったんですが、少々借金を残したまま他界されました。
そこで上のことが問題になりました。
一般に相続では、財産だけでなく、負債も引き継がれることになります。
たまにドラマなどで親が亡くなり、その借金で遺族(配偶者、子ども)が苦労するという設定がありますが、これは現実の世界でも決して珍しいことではありません。
もし相続の際に親の借金があった場合、それが遺産の範囲内で返済できるのであれば良いのですが、時として借金の方が多く、返済が難しいケースもあります。
そのような場合、「相続の承認や放棄」について最低限知っておかないと、後になって、親の借金で長い間苦しむことになりかねません。
そこで今回は、「相続で親に借金があった場合にどうする?」をテーマに、相続の承認や放棄について解説したいと思います。
「相続」とは、亡くなった方(被相続人)の権利や義務を、妻や子など一定の身分関係にある人(相続人)が受け継ぐことをいいます。
受け継ぐ遺産には、土地・建物、現金・預貯金、株式、公社債、ゴルフ会員権などの「積極財産(プラスの財産)」のほかに、借入金や保証債務などの「消極財産(マイナスの財産)」も含まれており、遺産を相続するということは、プラスの財産とマイナスの財産の両方を承継することを意味します。
しかしながら、「プラスの財産」よりも「マイナスの財産」が多い場合、相続人は相続によって大きな経済的負担を抱え込むことになってしまいます。
例えば、会社や商店、飲食店などを経営していた親が経営に行き詰まって、多額の借金を残したまま亡くなったケースや、資産家が相続対策のために多額のローンを組んで不動産投資を行い、バブル崩壊後の地価下落に対処しきれず、差し引きでは借金の方が多くなったケースなど、比較的よくある話です。
このような事態に対して、民法では、相続人が次の3つの選択肢(単純承認、限定承認、相続放棄)のいずれかを選択することを認めています。
・単純承認 無条件で相続する ⇒ 相続財産で相続債務を弁済できない場合は、自分の財産で
弁済しなければならない
・限定承認 条件付きで相続する⇒ 相続財産を限度に相続債務の弁済を承認する
・相続放棄 いっさいの財産を相続しない⇒ 相続債務を弁済しなくてもよい
したがって、相続時に明らかに大きな債務超過である場合は、相続人が連帯保証人になっていないのであれば、3つ目の「相続放棄」を選択して、借金から逃れることができます。
相続放棄には期限がある~3ヵ月以内であることに注意!
一般に誰かが亡くなると、相続が必ず発生します。多くの場合は、特にトラブルもなく相続が完了しますが、時として、相続と同時に借金問題などで思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。
そして、そのような場合の対処方法の一つに「相続放棄」がありますが、これは後で落ち着いてからでいいと、ゆっくりと対処できるものではありません。
実際に相続放棄をするには、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内」に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して、手続きをする必要があります。
この3ヶ月のことを「熟慮期間」といい、この期間を過ぎたり、相続財産の全部または一部を処分したりすると、自動的に「単純承認」をしたものとみなされます(これを「法定単純承認」という)。
<単純承認とみなされる場合(法定単純承認)>
1 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為※、短期賃貸借を除く)
2 3ヶ月の熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき
3 限定承認や相続放棄をした後でも、相続財産の全部または一部を隠したり、消費したり、またはその財産があることを知りながら財産目録に記載しなかったとき
※保存行為・・・家屋の修繕など財産の価値を維持するための行為のこと
また、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、「自分が相続人であることを知ったとき」という意味ですので、被相続人の死亡を知らない場合や、先順位の相続人が相続放棄をしたため、自分が繰り上がって相続人になったことを知らない場合などは、その時点では「3ヵ月」のカウントはまだ始まりません。
ただし、前述の事例のように、「まさか借金があるとは知らずに相続したら、相続放棄の期限後に督促がきた・・・」という場合も少なからずあるようです。実際のところ、早くに請求すると相続放棄をされてしまうため、相続放棄ができなくなってから取り立てにくる悪質な金融業者もいるのでご注意ください。
なお、原則として、熟慮期間である3ヵ月を過ぎたら、相続放棄はできません。
過去の判例では、この3ヵ月を「債務の存在を知ったときから」として相続放棄を認めた事例(昭和59年4月27日最高裁判決)もありますが、あくまでも債務の存在を知りえなかった「特別な事情」がある場合などに限られます。
くりおねも行政書士時代に親の死亡から3年経過していた事例で相続放棄の事案を扱ったことがあります。
この場合も「特別な事情」があったので、その点を詳しく家裁へ提出する申述書に書きました。
たぶん、放棄は成立するだろうという自信はありましたが、正式に結果が届いたときには安堵した
憶えがあります。
ところで、身近な借金といえば「住宅ローン」がありますが、これは相続の際にどうなるのでしょうか?
通常、民間の住宅ローンの場合、団体信用生命保険(団信)に加入することがローン要件の一つになっています。
そして、債務者(被相続人)が死亡したり、高度障害状態になったりした場合には、保険会社が債務者に代わって金融機関に借入残高を支払うため、遺族(相続人)に住宅ローンが残ることはありません。
一方で、「フラット35」の場合は、団信への加入は任意なので、加入していなければ、当然借金が残ります。また、任意で加入していても、団信の保険料を返済途中で支払っていなければ、保険は効かず借金が残ります。
これより、万が一残される家族のことを考えるなら、団信には加入しておくべきでしょう。
次に連帯保証人になっている場合の保証債務にも注意が必要です。
親が借金をしているのではなく、第三者の「連帯保証人」になっているケースも後でトラブルになりがちです。
一般に連帯保証人は、自分で借金をしているわけではなく、借金をした本人(債務者)がきちんと返していれば問題ないのですが、昨今の不況により、債務者が弁済しきれずに破産・倒産することが非常に多くなっています。
そのような状況の中で単純承認をしたら、連帯保証人の地位も相続によって引き継ぐわけですから、もしも債務者が弁済をしなかったり、自己破産申立をしたりした場合、相続人が債務者に代わって借金を支払わなければなりませんので、十分にご注意ください。
・ ・ ・
以上から、相続で親に借金があった場合には、細心の注意を払い、後になって親の借金で苦しまないように早急に対処することが必要です。
これについては、相続が開始されたら3ヵ月以内に、保証債務も含めて、住宅ローンやカードローン等の各種ローン、クレジット会社の未払い分、事業をしている場合には買掛金や借入金などの「マイナスの財産」の有無や金額をしっかりと確認し、「プラスの財産」と共に財産目録にして把握することが大切です。
そして、相続する財産がトータルでプラスになるのかマイナスになるのかを見極めて、今後において何が最善であるかをよく考えて、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを適切に選択するようにしましょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿