2011年6月19日日曜日

裁判では、真実が勝つとは限らない

茨城県で大工の男性(当時62歳)が1967年に殺害された「布川事件」で、犯人であるとして無期懲役が確定していた桜井昌司さん(64歳)と杉山卓男さん(64歳)が、再審の水戸地裁土浦支部において無罪判決を受け、この判決は今月8日、確定しました。


 1996年に仮釈放されるまで収監され続け、その後も犯罪を犯した者と扱われてきた二人の、冤罪が晴らされた瞬間です。

「それでもボクはやってない」という痴漢冤罪をテーマにした映画が話題になったり、1990年に栃木県で女児が殺害された足利事件で犯人とされた菅谷さんが、DNA鑑定が覆って再審で無罪となるなど、最近でも冤罪が話題になることは多いんですねぇ。
 公正な判断をすべき裁判所で、なぜ、真実と乖離した判決が出るのかと、疑問に思う人もいるでしょう。
 これは、裁判所が判断の前提とする「事実」が、「真実」とは別物であることから生じる問題です。
真実そのものを、法廷に持ってくることはできません。
訴訟の当事者(検察官、被告人)は、様々な証拠を集め、何が真実であるのかを法廷で主張します。

それをもとに、裁判官が「真実」のようだと考えて認定するのが「事実」とされます。

つまり、いくら真犯人でなくても、足利事件の古いDNA判定のように自分に不利な証拠があれば、真犯人であるとして有罪にされる可能性があるんです。

これは刑事訴訟に限りません。
民事訴訟でも同じことが言えます。
例えば、どんなに「借りたお金は返す」と口約束をしたとしても、証拠に残っていなければ、裁判で「事実」として認められることは難しい。
 このように考えてみると、将来訴訟になりそうだと考えたときは、自分に有利な証拠を集め、残していくという作業が必要になります。

また、ビジネスや日常生活でも「契約書」の存在は重要になります。


 ただ、そのような作業は、相手との関係をぎすぎすしたものにしがちであるし、やっていて気分のいいものではないかもしれません。和を好む日本人としては、なかなか難しいね。

2011年6月5日日曜日

【交通事故損害賠償の知識】保険会社の弁護士対応は恐くない!? 

最近、事故から1〜2ヶ月という早い段階から任意保険会社が弁護士に委任するケースが増えてきているらしいです。

今まででしたら、事故から1年以上経過してもムチ打ちの漫然治療を継続している被害者や、任意保険会社に対して威圧的な言動をする被害者等には弁護士が対応してきました。

しかし、最近では通常の治療を継続していて、しかも事故受傷から1〜2ヶ月という早い段階で弁護士対応にする事例が増えてきています。

弁護士対応にする保険会社の意図ですが、やはり早期に治療を中止させて自賠責保険の支払い金額を抑える為の策略かなと思っています。

自賠責保険は国の制度ですので、各損害保険会社が加入者から受け取ったお金を一旦プールし、そのお金から保険金が支払われてることから、損保協会全体が支出を抑えようとしているような気もします。

これも、震災の影響なのかなと考えると、今後の交通事故損害賠償の難しさが見えてきます。

では、実際に保険会社の窓口が弁護士対応になった場合、被害者はどうしたら良いかという事になりますが、基本的には何もする必要はないと考えています。



何もする必要はないというのは、被害者が慌てて弁護士に相談に行ったり、弁護士に依頼したりする必要はないということです。

今まで通りに治療をして、症状が軽快してきた時点で治療を中止するか、障害が残った場合症状固定をし、後遺障害申請をすれば良いと考えます。



ただ、ここで注意しなくてはならない事は、何故保険会社がわざわざ弁護士対応にしてきたか、その真意を知っておかないと正当な損害賠償を受け取れなくなる可能性があるという事です。



保険会社が弁護士対応にする大きな理由のひとつに、弁護士が出てくると裁判になると被害者に思わせる事です。

また、弁護士が被害者に送ってよこす法律用語を羅列した難解な通知書は、保険会社から受任したというだけの内容ですが、法律知識のない被害者にとっては不安を煽る郵便物です。

その通知書は、被害者を威圧して早く解決させるための単なるパフォーマンスにすぎませんが、一般の人は人生であまり関わることのない弁護士からの通知に右往左往してしまいます。



本来、被害者は損害を請求する側ですので、弁護士が出てきても全く慌てる必要はないのですが、慣れない被害者にとっては弁護士から通知がきたというだけで悪いことをしたような感情をもってしまいます。

弁護士からの通知書に威圧され焦ってしまった被害者は、「このまま治療をしていると裁判になって大変な事になる!」と大きな勘違いをし、まだ痛いのにもかかわらず、ほんの数ヶ月治療しただけで示談してしまうことすらあります。

もし、不幸にも後遺障害が残ってしまうような場合、目も当てられない結果が待っています。

よくお考えいただきたいのですが、弁護士は加害者の不法行為によって生じた損害における債務の支払いをする事が仕事です。



正確には、加害者が債務の支払い責任を保険会社に移譲し、保険会社が実務を弁護士に委任している形です。

加害者の代理人である弁護士は、あくまでも加害者に代わって債務の支払いをする事が仕事ですので、保険会社の担当者ぐらいに考えておくと気が楽になります。


もっと分かりやすく言うと、被害者が加害者を訴えることはあっても、その逆の加害者が被害者を訴えることはありません。

つまり、弁護士対応になっても被害者本人は何の心配もいらないとう事です。

ただ、保険会社が被害者に対し「債務不存在確認訴訟」を提起する事はありますが、頻繁にあるわけではなく対処方法もありますので、通常の被害者であれば心配要りません。


まとめとして、保険会社から「今後のやり取りはすべて弁護士として欲しい」と言ってきても、全く慌てる必要はないことをご理解ください。


被害者に交通事故損害賠償の知識さえあれば、被害者が弁護士に依頼する必要はなく、保険会社と話しをする時と同じ対応で大丈夫です。


ただ、知識のない被害者に対して口頭でウソを言う弁護士が全くいないわけではありませんので、弁護士が法律用語を多用して話しをしてくるような場合、ウソや紛らわしい言葉に騙されないよう注意してください。

これらのことを忘れずに、慌てず騒がず粛々と損害を請求していけば、弁護士対応になっても全く問題ありません。



被害者の最大の武器は知識です。

2011年5月3日火曜日

権利を主張するということ

このブログで前に「権利はどこからやってくる」のかということを書いています。
http://legal24.blog.so-net.ne.jp/2011-03-05

この記事で書いた「権利」とは、いわゆる基本的人権についてでした。
それは主に憲法にかかわる問題です。

今回は個人間の「権利」について書いてみたいと思います。

個人間の権利は主として「請求権」として現れます。
それは貸したお金の返還請求権だったり、給料の支払い請求権だったり、不法行為についての賠償請求権だったりします。

個々の請求権についてはまた後日ということにして、請求権の行使の仕方、つまり権利を主張するために必要なことについて書いてみましょう。

簡単な事例を設定します。

あなたはAに対してお金を貸しています。しかし約束の返還日になってもお金を返してくれません。
あなたならこの場合どうしますか?

そう、当然「返してくれ」と言いますよね。

これを民法では「意思表示」といいます。

この意思表示は法律上の要素としてかなり重要な意味を持ちます。

もし、この場合あなたがAに対して何の意思表示もしなかったらどうなるでしょう?

請求権は大抵の場合、時効によって消滅します。時効中断の方法はいろいろありますが、まずは返還の請求をしないと始まりません。

明確に返済日を決めていなければ、請求の意思表示がなければAは返済の義務すら生じません。

では、どうやってあなたは相手に意思表示をしますか?

電話で?直接あって? もちろんそれも立派な意思表示です。

しかし何らかの理由があってAがあなたにお金をを返さないと主張したらどうでしょう?
「受け取ったお金はもらったものだ」とか「まだ返済期日がきてない」とか言った理由があります。

これをAの立場からいうと、相手つまりあなたからの請求にたいする「抗弁」といって、これもひとつの権利といえます。

こうなってくると、電話や会っただけでは埒があかずやがては「裁判」ってことになりそうです。

しかし、その前にやることがあります。

それは明確に形に残るような意思表示をすること。

つまり「文書による意思表示」ということになります。

そしてそれは通常「内容証明郵便」によることになります。

世間的には単に内容証明と言われていますが、これは同じ文書を三通つくり、ひとつは相手に
ひとつは自分の手元に、そして三通目は第三者機関である郵便局が保管することで、文書の内容と意思表示の日付の正確性を担保することができます。

内容証明郵便の作り方は決まった形式があるのでコチラを参照してください。

内容証明は「ただの紙切れ」と表現されることもあります。

しかし、ただの紙ですが、されど後々裁判にも利用されうる「紙」だということも忘れないように。

出す方も、受け取ったほうも、決して侮ってはなりません。

くりおねはこの内容証明の作成を過去300件以上請け負って、年収6百万以上稼いでいたこともあります。

押さえるべきポイントを押さえた文書の威力は、かなり強力です。

また、いずれブログでそんな内容証明についてもくわしく書いていきたいと思います。

具体的に何か質問があればコメントへ書きこんでみてください。

2011年4月24日日曜日

間違ってはいけない相続の話

つい最近、会社の同僚のお父さんが亡くなりました。

で、そのとき気がついたんですが、みなさん相続の基本的な部分に誤解が多々あるようです。

まず「財産だけでなく負債も相続・・・親の借金は子が返さなくてはならないのか?」という問題。
先のお父さん、財産はたいしてなかったんですが、少々借金を残したまま他界されました。
そこで上のことが問題になりました。

一般に相続では、財産だけでなく、負債も引き継がれることになります。
たまにドラマなどで親が亡くなり、その借金で遺族(配偶者、子ども)が苦労するという設定がありますが、これは現実の世界でも決して珍しいことではありません。
もし相続の際に親の借金があった場合、それが遺産の範囲内で返済できるのであれば良いのですが、時として借金の方が多く、返済が難しいケースもあります。

そのような場合、「相続の承認や放棄」について最低限知っておかないと、後になって、親の借金で長い間苦しむことになりかねません。
そこで今回は、「相続で親に借金があった場合にどうする?」をテーマに、相続の承認や放棄について解説したいと思います。

「相続」とは、亡くなった方(被相続人)の権利や義務を、妻や子など一定の身分関係にある人(相続人)が受け継ぐことをいいます。
受け継ぐ遺産には、土地・建物、現金・預貯金、株式、公社債、ゴルフ会員権などの「積極財産(プラスの財産)」のほかに、借入金や保証債務などの「消極財産(マイナスの財産)」も含まれており、遺産を相続するということは、プラスの財産とマイナスの財産の両方を承継することを意味します。

しかしながら、「プラスの財産」よりも「マイナスの財産」が多い場合、相続人は相続によって大きな経済的負担を抱え込むことになってしまいます。

例えば、会社や商店、飲食店などを経営していた親が経営に行き詰まって、多額の借金を残したまま亡くなったケースや、資産家が相続対策のために多額のローンを組んで不動産投資を行い、バブル崩壊後の地価下落に対処しきれず、差し引きでは借金の方が多くなったケースなど、比較的よくある話です。

このような事態に対して、民法では、相続人が次の3つの選択肢(単純承認、限定承認、相続放棄)のいずれかを選択することを認めています。

・単純承認 無条件で相続する ⇒ 相続財産で相続債務を弁済できない場合は、自分の財産で
                  弁済しなければならない
・限定承認 条件付きで相続する⇒ 相続財産を限度に相続債務の弁済を承認する
・相続放棄 いっさいの財産を相続しない⇒ 相続債務を弁済しなくてもよい

したがって、相続時に明らかに大きな債務超過である場合は、相続人が連帯保証人になっていないのであれば、3つ目の「相続放棄」を選択して、借金から逃れることができます。

相続放棄には期限がある~3ヵ月以内であることに注意!

一般に誰かが亡くなると、相続が必ず発生します。多くの場合は、特にトラブルもなく相続が完了しますが、時として、相続と同時に借金問題などで思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。

そして、そのような場合の対処方法の一つに「相続放棄」がありますが、これは後で落ち着いてからでいいと、ゆっくりと対処できるものではありません。

実際に相続放棄をするには、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内」に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して、手続きをする必要があります。

この3ヶ月のことを「熟慮期間」といい、この期間を過ぎたり、相続財産の全部または一部を処分したりすると、自動的に「単純承認」をしたものとみなされます(これを「法定単純承認」という)。

<単純承認とみなされる場合(法定単純承認)>
1 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為※、短期賃貸借を除く)
2 3ヶ月の熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき
3 限定承認や相続放棄をした後でも、相続財産の全部または一部を隠したり、消費したり、またはその財産があることを知りながら財産目録に記載しなかったとき

※保存行為・・・家屋の修繕など財産の価値を維持するための行為のこと

また、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、「自分が相続人であることを知ったとき」という意味ですので、被相続人の死亡を知らない場合や、先順位の相続人が相続放棄をしたため、自分が繰り上がって相続人になったことを知らない場合などは、その時点では「3ヵ月」のカウントはまだ始まりません。

ただし、前述の事例のように、「まさか借金があるとは知らずに相続したら、相続放棄の期限後に督促がきた・・・」という場合も少なからずあるようです。実際のところ、早くに請求すると相続放棄をされてしまうため、相続放棄ができなくなってから取り立てにくる悪質な金融業者もいるのでご注意ください。

なお、原則として、熟慮期間である3ヵ月を過ぎたら、相続放棄はできません。
過去の判例では、この3ヵ月を「債務の存在を知ったときから」として相続放棄を認めた事例(昭和59年4月27日最高裁判決)もありますが、あくまでも債務の存在を知りえなかった「特別な事情」がある場合などに限られます。

くりおねも行政書士時代に親の死亡から3年経過していた事例で相続放棄の事案を扱ったことがあります。
この場合も「特別な事情」があったので、その点を詳しく家裁へ提出する申述書に書きました。
たぶん、放棄は成立するだろうという自信はありましたが、正式に結果が届いたときには安堵した
憶えがあります。



ところで、身近な借金といえば「住宅ローン」がありますが、これは相続の際にどうなるのでしょうか?
通常、民間の住宅ローンの場合、団体信用生命保険(団信)に加入することがローン要件の一つになっています。
そして、債務者(被相続人)が死亡したり、高度障害状態になったりした場合には、保険会社が債務者に代わって金融機関に借入残高を支払うため、遺族(相続人)に住宅ローンが残ることはありません。

一方で、「フラット35」の場合は、団信への加入は任意なので、加入していなければ、当然借金が残ります。また、任意で加入していても、団信の保険料を返済途中で支払っていなければ、保険は効かず借金が残ります。

これより、万が一残される家族のことを考えるなら、団信には加入しておくべきでしょう。

次に連帯保証人になっている場合の保証債務にも注意が必要です。

親が借金をしているのではなく、第三者の「連帯保証人」になっているケースも後でトラブルになりがちです。
一般に連帯保証人は、自分で借金をしているわけではなく、借金をした本人(債務者)がきちんと返していれば問題ないのですが、昨今の不況により、債務者が弁済しきれずに破産・倒産することが非常に多くなっています。

そのような状況の中で単純承認をしたら、連帯保証人の地位も相続によって引き継ぐわけですから、もしも債務者が弁済をしなかったり、自己破産申立をしたりした場合、相続人が債務者に代わって借金を支払わなければなりませんので、十分にご注意ください。

・ ・ ・

以上から、相続で親に借金があった場合には、細心の注意を払い、後になって親の借金で苦しまないように早急に対処することが必要です。

これについては、相続が開始されたら3ヵ月以内に、保証債務も含めて、住宅ローンやカードローン等の各種ローン、クレジット会社の未払い分、事業をしている場合には買掛金や借入金などの「マイナスの財産」の有無や金額をしっかりと確認し、「プラスの財産」と共に財産目録にして把握することが大切です。
そして、相続する財産がトータルでプラスになるのかマイナスになるのかを見極めて、今後において何が最善であるかをよく考えて、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを適切に選択するようにしましょう。

2011年4月14日木曜日

【最高裁】個人事業主でも「労働組合法上の労働者」と判決

気になる判例が出てたので、まずは新聞記事を以下に引用します。


住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主は「労働組合法上の労働者」に当たるか。劇場側と個人として出演契約を結ぶ音楽家の場合はどうか。二つの訴訟の判決で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、いずれも「労働者に当たる」との判断を示した。

 企業が外注化を進め、個人事業主が急増する中で、判決は個人として働く人の権利を重視し、組合をつくって団体交渉する道を開いた。IT技術者やバイク便のドライバー、ピアノ教室や塾の講師など形式的には独立した事業主でも、働き方の実態によって労働者と認める先例となりそうだ。

 うち一つの訴訟を起こしたのは住宅設備会社「INAX」(現リクシル)の子会社「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)。製品の修理などを一定の資格をもつ「カスタマーエンジニア」(CE)に委託してきた。

 CEでつくる労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前に協議することなどを同社に申し入れたが、拒否された。この対応を中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴した。

 第三小法廷は、IMTがCEの担当地域を割り振って日常的に業務を委託していたことや、CEは業務の依頼を事実上断れなかった点を重視。「時間、場所の拘束を受け、独自の営業活動を行う余裕もなかった」として労働者に当たると結論づけた。

 09年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認めたが、同年9月の二審・東京高裁判決は「業務の依頼を自由に断れ、いつ仕事をするかの裁量もあった」として労働者とは認めなかった。第三小法廷はこの二審判決を破棄し、IMT側敗訴の一審判決が確定した。IMTは今後、CE側との団体交渉に応じることになる。

 もう一つは新国立劇場(東京都渋谷区)のオペラ公演に出演する1年ごとの契約を結んでいた合唱団員をめぐる訴訟。ただし第三小法廷は、契約を更新しなかったことが不当労働行為かどうかをめぐり、審理を東京高裁に差し戻した。

 合唱団員の女性は1998年から5年間、毎年のオーディションに合格し、契約更新を続けた。しかし03年に不合格となり、女性が加入する労働組合が劇場側に団体交渉を申し入れたが、拒否された。


   ■              ■

法律の解釈には書かれている「文言」から素直に読み取れる意味を明らかにする「文理解釈」と
その法律が作られた目的・趣旨を探る解釈方法があります。

通常、裁判などの争訟となった場合、裁判所はその法律が作られて趣旨にまでさかのぼって問題の解決にあたろうとします。

今回問題となった「労働者」。
企業は個人と契約になった場合、よく「業務依託」契約を結びます。

これには労働基準法、労働組合法などの個人が労働者として持つであろう権利を排除しようという意図が隠されています。

「労働者」とされた場合、契約先に対しては組合を作って条件などを交渉することができることになります。

また「ストライキ権」も行使して、業務拒否を適法に行えます。

上の事例ではそれを企業側が阻むために「業務委託契約」としていたんだと思います。

しかし、その実態は個人に場所的時間的自由はなく、仕事についての裁量がかなり制約されていたようだ。
こうなると、個人で営業しているのか雇われているのか区別がつきにくいことになります。

こういう実質を捉えて最高裁判所は、これらの個人を「労働者」と認定したんだと思います。

ただし、今回認められたのは「労働組合法上の」労働者の権利だけ。
労働基準法上の権利については判断されていません。

しかし、ビジネス界では実質は雇用されているのに、会社との契約は「業務依託」という例はたくさんあります。

労働基準法上の権利が認められると、労働時間や休日に関する権利、給料や解雇制限についての権利が行使できることになります。

今後はこういう実態に踏み込んだ判例がでてくることを期待します。

2011年4月2日土曜日

日本相撲協会が裁定 臨時理事会より力士ら23人に「永久追放」など厳罰

 ニュース記事


このブログでも「大相撲八百長」問題は取り上げました。⇒コレ

その中でくりおねは、この事件を調査しているはずの「特別調査委員会」なるものが、いかにいい加減であるかについて書きました。

そして、その「調査結果」なるものを基礎として、日本相撲協会が裁定を下した。

しかし、処分を受けた力士や親方からは憤懣続出の模様です。

そりゃぁそうでしょう。ろくに証拠もなく、証拠があるかのように見える場合でも相手に弁明の機会も与えず、ほぼ「推定有罪」下での取り調べとも言える状況で行われた調査に、ホントに身に覚えのない力士親方が反発するのは当然です。

この処分を受けて、元小結海鵬の谷川親方は「こんなばかな話はない。春日錦と同じ時期に一緒の番付にいただけで処分されるのはおかしい。理事会では調査委員会のずさんな調査への不満を言った。法的手段に訴える。当たり前だ」と述べています。

いや、ホントこれは本格的に法廷に持ち込まれるべき問題でしょう。

裁判では「当事者主義」の原則が働きます。
これは利害・権利が対立する当事者の間における法的な紛争において、事実関係を最も熟知している当事者が証拠の発見・提出を主導することが効率的であり、このような当事者が自己の利益を実現する目的のために主張・立証を行うことが最も効率的に訴訟上の真実の発見につながると考えられていることから導かれる原則です。

本来、争う当事者は「平等」であることが前提であり、そのような前提で証拠を精査できる裁判でこそ結果を出すのが賢明でしょう。


2011年3月29日火曜日

「敷金差し引き特約」に最高裁が初めて有効と判断

賃貸マンションの借り主に返還される敷金から、家主が無条件に一定額を差し引くと定めた賃貸借契約の特約(敷引特約)が消費者契約法に基づき無効かどうかが争われていました。

そして24日、この訴訟の判決で最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は「特約は原則として有効」とする初判断を示し、差し引かれた敷金の返還を求めた借り主側の上告を棄却して請求を棄却した1、2審判決が確定しました。

このいわゆる敷引特約は関西地方や福岡県などで慣習化しています。

同様な訴訟では地裁や高裁で特約を無効とする判断が相次いでいました。

この判決は「特約にはあらかじめ敷金から差し引く額を決めてトラブルを防止する意味があり、貸主の取得額が賃料などに比べて不当に高くなければ有効」と述べました。


この事件で消費者契約法のどの条項が論点となっていたか明らかになっていません。
たぶん第10条の「消費者の利益を一方的に害する」契約条項として無効を主張していると思われます。

原則的に契約は両当事者が公序良俗に反しない限り自由に取り決めることができます。
しかし、賃貸契約などはほぼ家主や仲介業者が一方的に相手方に提示され、その相手方はそれを承諾するか否かの自由しかありません。

この判決では、どの程度の不利さ加減からその契約が無効となるか有効のままかを争う限界事例だったんだと思います。

実際の判断は、その契約の家主の有利さ、または賃借人の不利さにどのような合理的な理由があるかを対象に繰り広げられます。

ただ「いくらくらい」という基準はあまり明確になりません。

具体的な事例の積み重ねが、「判例法」として形成されるんですね。